社会福祉法人 和光福祉会
事業種別:共同生活援助
◎東和苑グループホーム(定員10名)
大阪府泉南郡熊取町 木造2階建
198.00㎡
竣工 2018年6月
D’S PALETTEに決めた経緯は?
パレットの中島社長とは、もともと取引のある地銀さん経由で繋がりがあったんです。
熊取は企業が少ない町ですから、その中でがんばってらっしゃる企業ということで引き合わせて頂いていました。
その後、中島社長が「障がい者の方向けのグループホームが圧倒的に足りていない」という事実を知り、同じ住まいを提供する者として「何か出来ることはないか!」と使命感を抱いたそうなんです。
ですが、自らの法人でやるには、消防法など福祉に関わっていない人には難しいことが多くて、「いろいろ教えてください!」という感じで声をかけてもらったのが始まりですね。
その後、社内でも「ANDプロジェクト」を立ち上げて正式に福祉部門に挑戦されたんです。「想いを本当にカタチにするのは、すごいなあ」と感じました。
いざ、僕たちが社会福祉法人としてグループホームを出そうという時には、他の建築会社にも声をかけたんです。
僕たちとしては、住宅地…みんなの近くで暮らせる場所に創りたい想いがあったのですが、提案された場所が山奥で工場の跡地だったり…要はちょっと近隣住民さんとトラブルにならないようにと隔離するみたいな場所ばかり当たり前のようにあげてくるんです。
自立に向けた支援をしようというなら、そんな人里離れた場所では意味がありません。
あまりにわかってもらえないから私が腹を立てて、ケンカになったこともありました(笑)ですがパレットさんだけが、僕たちの意志を汲んでこの住宅街の中での立地を見つけて提案してくれたんです。
プランニング段階はどうでした?
町中の立地だけにまずは周辺住民のみなさんとの調整が必要でした。
それでパレットさんと相談しながら、「防災拠点型」というテーマで進めることにしました。
僕たちが既に展開していたグループホームのことをご存知の住民さんもいて、「和光福祉会さんがやるなら…」と味方になって下さった方が出てきたのはありがたかったですね。
周辺にビラをまいたり、ご説明に回る際には中島社長も自ら来てくれて、一緒に説明して下さいました。ホントに散髪屋さんなど1件1件回ってくれたんですよ(笑)隣で話すのを聞いていても本当に勉強家で「自分たちはどうしたら社会貢献できるだろう?」とすごく学んで来て下さっているのが、私にも伝わってきました。
どこに訪問しても穏やかで、それでいて強い意志を持って退かない…そういう部分は本当に感心させられました。
住民のみなさんの同意を取り付けるまでに1年半かかり、大変だったんですけど、一緒にやれたことがホントに楽しかったですね。
あれからもう8年になりますが、社長が熊取の町を一緒に歩いて回ってくれたことは今でも忘れません。
パレットさんの建てるグループホーム第1号になれたことを誇らしく思います。
反応はどうですか?
「いかにも施設」というものではなく、昔っぽい温かみのある家のような造りになっているんです。
外観も町に自然と馴染む仕上げで、行き交う人も「ここに施設があるね」と気にとめたりしない。
これって、グループホームが地域に馴染んでいくうえで大事なことだと思うんです。
特にこの「東和苑グループホーム」は町の入り口のような場所に位置します。
そこを活かして往来する人が映せるカタチで防犯カメラを設置、地域の防犯にも貢献できています。
バス停が近くにあるというのも、免許を持たない利用者さんのことを思えばありがたい立地です。
ここは、出かけようにも車がないと不便な町ではありますからね。そういう「利用者さんにとってどうか」という考えありきで一緒に創ってもらえたのは、本当によかったと思います。
もうオープンして5年になりますが、今ではすっかり周辺住民のみなさんのグループホームへの理解も進んでいて、地域の自治会の方が、「一緒に行こう?」と利用者の方を誘いに来て下さって、地域の交流イベントにも参加できるまでになりました。
地域によっては説明会の時点で猛反対にあって、心ない言葉をいただくことも多かったんです…もう思い出したら悔しくて泣いてしまいそうなんですが。それだけに「東和苑グループホーム」がここまで地域に受け入れてもらえたのは本当にうれしい…あ、今度はうれしくて泣いてしまいそうですよ(笑)
支援のしやすさなどで変わった点はありましたか?
家っぽい雰囲気は、あるものの一人一部屋に鍵をかけられるから、気兼ねなく私物を置いておいたり、好きなテレビを見たり、自分の時間を過ごせる空間になっています。
広すぎず、狭すぎず、生活動線を考えてムダを省いた設計は、とくに元々入所施設のようなところで暮らしていたみなさんからの評判はいいですね。
自宅で暮らしていた方の場合、どうしても自宅よりは制限される部分もありますから、窮屈に感じることもあるかもしれませんが(笑)。
2Fにお住まいの方は自己責任で自由に外出できるようにしていますが、ちゃんと戻ってきてくれています。
そういう個別支援も順調に進められていますよ。
パレットさんといろいろ相談しながら創っただけに、当時考えた中では最高の設計に出来たと思います。
もちろん、実際に暮らし始めると、台所をオープンにして家庭っぽくした分、夜中に食糧を勝手に食べちゃう人が出て来たりするという反省点も出てきました。
ですが、パレットさんは第1号となった私たちとの仕事をふまえ、その後もどんどん障がい者支援や福祉の知見を深め、ノウハウを蓄積されています。
今はさらに進化したものづくりを提供されていると思います。
実際、私たちも2件目、3件目とリピートでお仕事をお願いした際にも進化は実感しましたね。
2件目のグループホームはどうですか?
2件目となった「新家ホーム」は、この「東和苑グループホーム」とはコンセプトも違っていて、比較的軽度の障がいの方が「一人暮らしの訓練」的に入居できる場所です。
2Fは全てワンルームになっています。個人の部屋は少し狭いんですけど、いろんなものに手を伸ばせば届いたりで、ムダに広い空間で過ごすよりもかえって快適なんです。
それでいてご飯は出してもらえますから、過ごしやすいんでしょうね。
「もう、ここでいいじゃないか!」となってしまうみたいで…だから本来、一人暮らしの訓練のはずだったのに「快適すぎて、卒業してくれない」というのが悩みになってきました(笑)。
利用者さんの中にも、ちゃんと仕事もしていて、「一人暮らしがしたい」という気持ちが芽生えてくる人もいるんですよ。
ですが、どうしても周囲との調整で、踏み切れないケースも多いんです。
福祉に関わる者としては、そういう部分でも自立のための支援・説得ができるようにがんばっている次第です。
何か、印象に残っていることはありますか?
3件も同じところに創ってもらうって珍しいと思うんです。
でも、ここまでコンセプトを理解して、私たちが考えていることをわかってくれる事業者さんには、なかなか出会えませんから。
でも唯一、「あれ?」と思った事があったんです。
あるスタッフさんと打ち合わせしている時に「これは事業化できますよ!」みたいな言葉が出てきたことがあったんです。
これがちょっとショックで…しばらく口をきかなかったくらいです。
この業界、お金儲けでやってくる業者さんも正直多いと思うんです。
でもパレットさんは、そういうことを度外視でやってくれているのは第1号の物件を社長と共に創った時から感じていました。
だから「あれ?中島社長の方針が変わったのかな?」と思ってしまって…。
あとで確認したら、全く社長は変わっていなくて安心しました。
その後、そのスタッフさんと飲みに行って、言いたいことを言って「また一緒に頑張ろう!」となったんですけど(笑)。
そんな一件があったことで、またパレットさんに対する信頼感は強くなりました。
…実は僕が「事業化できますよ」という言葉にカチンと来ていたことは、飲みに行った際にも言わず、今の今まで内緒にしていたんです。
本人が見たらびっくりするかもしれませんね…だとしたら言っておいてください。また飲みに行きましょうって。もちろん飲み代は割り勘ですよ(笑)
これから建てる方へアドバイスがあれば教えて下さい
グループホームを建てるなら、まず利用者さんのニーズありきで考えるべきだと思うんです。
たとえば「このエリアにこういうニーズがあって、ちょっと生きづらく感じている方がいる」…そういう方の声に応えたものを作ってこその「福祉事業」だと考えています。
もちろん特定のニーズに寄り沿いすぎると、他の方のニーズを叶えられなくなりますからバランスを考えた見定めは必要ですが…。
とにかく利用者さんの立場に立って考えることが大事と思います。
そして建築をお願いする事業者さんを選ぶ際は、「自分の家の隣に、このグループホームが建ったらうれしいですか?」と聞いてみてください。
迷わず「うれしいです!そういうグループホームにしましょう!」って言ってくれる事業者さんに頼めば、間違いはありません。
グループホームをつくることは、人の人生をつくるお役に立てる仕事です。
ですが人の幸せを考えるのは、本当に大変なことですよね。
だからこそ、僕たち福祉に関わる人間の気持ちをしっかりわかってくれる事業者さんと一緒に仕事をすることが大きな助けになると思うんです。